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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)2592号 判決

第二六四八号事件控訴人・第二五九二号事件被控訴人(原告) 株式会社大洋商会

第二五九二号事件控訴人・第二六四八号事件被控訴人(被告) 橋本刷子工業株式会社

原審 大阪地方昭和五七年(ワ)第七〇三五号(昭和五九年一二月二〇日判決、一六巻三号八〇三頁参照)

主文

一  第一審原告の控訴に基づき原判決主文第二項を次のとおり変更する。

1  第一審被告は、原判決別紙第一及び第二目録記載の各物件を製造し、展示、販売してはならない。

2  第一審被告は、その占有する前項記載の各物件(仕掛品、完成品)を廃棄しなければならない。

3  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審被告の本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を第一審被告、その余を第一審原告の各負担とする。

四  この判決の第一項1、2は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  昭和五九年(ネ)第二六四八号事件

1  第一審原告

(一) 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

(二) 主文第一項1同旨。

(三) 第一審被告は、その占有する前項記載の各物件(仕掛品及び完成品)及びその製造用金型を廃棄しなければならない。

(四) 第一審被告は、第一審原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年九月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(五) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

との判決と(二)ないし(四)項につき仮執行宣言

2  第一審被告

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告の負担とする。

二  昭和五九年(ネ)第二五九二号事件

1  第一審被告

(一) 原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告の負担とする。

との判決

2  第一審原告

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審被告の負担とする。

との判決

第二主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決八枚目表六行目の「なお」から同七行目の「ものの」まで(編注、一六巻三号八〇九頁五行目から六行目にかけて)を「すなわち、森本が第一審原告に対し本件意匠権について専用実施権を設定する契約を両者間で締結し、第一審原告は、昭和六〇年五月二七日その旨の登録をした。そして右登録前においても」と改め、同九枚目表一二行目(同上、八一〇頁一行目)の「更に、」の次に「本訴の提起、維持、弁護士費用その他本件に関し三〇〇万円を下らぬ出費による損害のほか」を加える。

二  同一一枚目裏一行目(同上、八一一頁一四行目)の「登録のない」を「設定につきその主張のとおりの契約を締結し、その主張の日にその旨の登録をした」と改め、同一〇行目(同上、八一一頁一九行目)末尾に続けて「そして、第一審被告はイ号物件、ロ号物件の各製造用金型をすでに廃棄している。」を加え、同一七枚目表一行目(同上、八一五頁一一行目)の「現在」を「昭和六〇年五月二七日」と改める。

第三証拠〈省略〉

理由

一  第一審原告の本訴請求に対する当裁判所の判断は、次に付加、訂正するほか原判決理由の説示と同じであるから、これを引用する。

1(一)  原判決二一枚目表五行目(編注、一六巻三号八一七頁一五行目)、同裏一〇行目(同上、八一八頁六行目)、同二二枚目表八行目(同上、八一八頁一一行目)、同一一行目(同上、八一八頁一三行目)、同二四枚目裏一一行目(同上、八二〇頁一五行目)の各「原告」の前に各「原審の」をそれぞれ加え、同二六枚目表九行目(同上、八二一頁一七行目)の「他に右」を「原審(第一、二回)及び当審の第一審原告代表者本人尋問の結果のうち第一審原告の前記主張に副う部分は採用し難しく、他に右主張」と改め、同裏三行目(同上、八二二頁四行目)冒頭の「原告」の前に「原審の」を加える。

(二)  同二七枚目表二行目(同上、八二二頁一〇行目の初出の「登録」)の「登録」の前に「昭和六〇年五月二七日まで」を、同九行目(同上、八二二頁一三行目)の「本件」の前に「間の」を、同末行(同上、八二二頁一五行目)の「専用」の前に「右登録前の」を、同三〇枚目裏一一行目(同上、八二五頁五行目)末尾に続けて「(但し、第一審原告がその後専用実施権を登録したことにより差止請求権を有するに至つたことはのちに説示するとおりである。)」をそれぞれ加える。

(三)  同三二枚目表四行目(同上、八二六頁四行目)末尾に続けて「なお、当審の第一審原告代表者本人尋問の結果によると、同本人が昭和五八年夏ころ東京の小売店でロ号物件が展示されているのを現認したことが認められるが、原審の第一審被告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、第一審被告において右登録後に同物件を製造販売したものとは断定し難い。」を、同三四枚目表一・二行目(同上、八二七頁一三行目)、同三行目(同上、八二七頁一四行目)、同三五枚目裏一一行目(同上、八二九頁四行目)、同三七枚目表三行目(同上、八三〇頁二行目から三行目にかけて)、同三八枚目裏二行目(同上、八三一頁五行目)の各「原告」の前に各「原審の」をそれぞれ加える。

2  差止請求権について

(一)  第一審原告が、森本との契約に基づき昭和六〇年五月二七日本件意匠権の専用実施権の設定を登録したことは当事者間に争いがない。

(二)  イ号意匠が本件意匠と類似することは原判決理由第二、四説示のとおりであるから、ロ号意匠が本件意匠に類似するか否かにつき検討する。

(1) ロ号物件であることにつき争いない検乙第二号証、前記甲第一二号証、原判決第二目録記載の説明によると、ロ号物件が本件意匠にかかる物品と機能及び用途を同じくする「ヘアーブラシ」であること、本件意匠の構成は前説示(引用にかかる原判決三二枚目裏一行目から一〇行目まで(同上、八二六頁一〇行目から一五行目まで))のとおりであり、ロ号意匠の構成は次のとおりであることが認められる。

(イ) ブラシは台座部分と柄からなり、

(ロ) 台座部分の両端には左右対称に七個の割り込みを設け

(ハ) 台座部分には円錐状の歯を二五個設け、歯は縦に三列(真中の列が九個、右左が八個)で左右の二列の歯は台座部分の割り込みの嶺に設けられ、真中の一列の歯は、柄に最も近い一本を除き、対応する左右の残りの列の歯に比して上部にずれる位置にある。

(ニ) ブラシの側面からみると、柄から台座にかけてゆるやかに湾曲している。

(2) そこで、ロ号意匠の構成と本件意匠の構成とを対比すると、ロ号意匠は、台座部分の左右の割り込みが本件意匠より二個少く、歯が本件意匠より五個(真中の列で一個、左右の列で各二個)少いほか同一であり、全体を総合的に観察した場合に割り込み及び歯の数が僅かに相違することは両者の美感を異ならしめるものではないから、ロ号意匠は本件意匠と類似するものというべきである。

(三)  以上説示(付加、訂正のうえ引用にかかる原判決理由を含む)のとおりであつて、第一審被告は、業としてイ号物件及びロ号物件の製造、販売をしてきたものというべきところ、原審の第一審被告代表者本人尋問の結果によると、第一審被告は現に右各物件の在庫品を有していることが認められる。

そして弁論の全趣旨及びこれにより右各物件の製造用金型の写真と認められる検乙第三号証の一、二(イ号物件用)、同第四号証の一、二(ロ号物件用)によれば、第一審被告は、現在右各金型を切断し廃棄していることが認められるけれども、第一審被告において、なおイ号意匠及びロ号意匠が本件意匠の類似意匠であることを争つていることからみて、第一審被告が本件専用実施権の侵害行為をするおそれがあるものと解される。

(四)  すると第一審原告の差止請求は、第一審被告に対し、原判決別紙第一及び第二目録記載の各物件を製造し、展示、販売することを差し止め、その占有する右各物件(仕掛品、完成品)の廃棄を求める限度で正当としてこれを認容し、前記金型の廃棄を求める請求は失当として棄却すべきである。

二  よつて、以上と一部結論を異にする原判決主文第二項を変更し、第一審被告の本件控訴は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 首藤武兵 寺崎次郎 井筒宏成)

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